将棋ウォーズ2級になって、将棋の大会に出たら5歳児にボコられた話

世間では、藤井四段の躍進が止まらないと日々報道が加熱している。

同じ愛知県民としては、嬉しい限りである。

将棋のニュースを見る度に、あの日の出来事が脳裏をよぎる。

 

そう。人生初の将棋大会で、

5歳の男の子に300秒きっかりで(5分)で破れてしまったのだ。

 

「初めての土地に行ったら、初めてのことをしよう。」

 

そんなルールを密かに課していた私は、
名古屋市にある小さな将棋教室の門戸を開いた。

 

そこでは30名ほどの老若男女が集い、

毎週将棋のリーグ戦が行われていたのであった。

 

60前後のおじいちゃんから小学生風の男の子まで幅広くいた。

 

初めての試みにドキドキしながら、

青いジャケット×スキニーパンツ×青いストー

という颯爽としたファッションに身を包む26歳♂は、

デビュー戦へのステップを一歩ずつ登ろうとしていた。

 

そして、完全に浮いていた。

浮き散らかしていた。

 

「将棋ウォーズで2級になったし、結構いけるんじゃないか?」

と話し相手のいない私は将棋教室の本棚を眺めながら密かに思っていた。

 

ほどなくして、対戦相手の抽選が始まった。

 

記念すべき相手は、

5歳の匠くんらしい。

「強そうな名前だな。」

とは少しおもった。ほんの少しだけ。

 

そして、その予想は見事的中することとなる。

 

生まれて初めての木製の将棋盤。そして対戦。

 

「よろしくお願いします。」

ぺこりと頭を下げ、対局を開始。

 

なにやら匠くん(以下たくちゃん)が

おもむろに将棋の歩を7つ手中でシャッフルし始めた。

 

「え?」

 

と思わず口から漏れると、

どうやら先行か後攻かを決める際に、

歩のシャッフルを行うらしい。

常識らしい。

 

常識知らずの26歳♂の鼓動は初めての体験の連続に

未だ鳴り止んでいなかった。

緊張のせいかオシャレな青いストールを

無意識にすがるように握りしめていた。

藁をもつかむ思いだった。

 

先行はたくちゃん。

駒を進め終わったら、手元のタイマーを押して時間を止める必要があるということを

ご丁寧に教えてくれた。

ありがとう。たくちゃん。おてやわらかに。(にっこり)

 

そんな感謝の束の間、衝撃の光景が眼前に広がった。

 

 

「ぷぅぱっっっっっっーーーーーーーーーん!!!」

 

 

歩の駒を持った右手を

遥か天空に持ち上げ、勢い良く将棋盤に叩きつけるたくちゃん。

すかさずタイマーを押す。

 

 

「べしぃぃぃぃっっっっっっっ!!!!」

 

 

この世に生を授かって以来、オンラインでしか将棋を嗜んだことのなかった

26歳♂には衝撃的な音と迫力だった。

 

「スッて横にスライドされば済むものを

なんでそんなに遥か天空に上げて音出してくるの?おしえてたくちゃん。(真顔)」

 

とは言えず、持ち時間の30分が過ぎることを恐れ、

なにより動揺を全力で隠したい私は駒を進める。

 

「スッ」

 

たくちゃん二手目。

 

 

「ぷぅぱっっっっっっーーーーーーーーーん!!!」

 

 

この男、ぶれない。
範馬刃牙の世界観なら木っ端微塵になっているであろうそのスイングを

お母さんに見せてあげたい。

「産んでくれてありがとう」って。

 

たくちゃんの手は一手損角換わり。

淡路仁茂が生みの親。

2004年頃から盛んにプロ棋士g(ry

 

動揺が止まらない。

なぜこんなパンパンパンパンしてくれるのか。

わからない。

 

怖い。怖いよたくちゃん。

 

それでも懸命に駒を進め、タイマーを止め、悩み考え、

格闘を続けた。

決死の攻防だった。

 

しかし、無残にも初戦敗退。

完膚なきまでに5歳児(たくちゃん)に叩きのめされた私は天を仰ぎ、

再び青いストールを強く強く握りしめていた。

 

悔しさが収まらない私は、

この感情をどこへぶつけたら良いのか皆目検討がつかなくなっていた。

 

そこで、自らの陰毛を複数本抜き、

こっそりと後方を向くたくちゃんの頭へ振りかけた。

「おおきくな〜れ、おおきくな〜れ」と

呪文を唱えながら。

 

幸か不幸かその姿を主催者に目撃された私は、

即レッドカードを食らい、将棋教室を発った。

出禁にもなった。

 

整理しきれない感情を胸に家路についていた。

その過程で私の願いは一つに集約された。

 

たくちゃんがいずれ藤井四段を抜く連勝記録を樹立するプロ棋士になった暁には、

「おっきくなった〜♪」「おっきくなった〜♪」

と意気揚々と腰を振りながら、陰毛をかけて祝ってやりたい。